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『ここは今から倫理です。』2巻ネタバレ紹介！
6話 見たい顔
「あたしみたいなＳは、大人の男を泣かせたくなる」
深川時代（ふかがわときよ）は、そんなことをうそぶく、切れ長の目が特徴的な女子生徒です。
時代は男の先生を標的にして罠に嵌め、絶望に歪んだ顔を見るという、危険な遊びにハマっていました。
高柳（たかやなぎ）先生がその標的になったのは、今から２年前のこと。
当時１年生だった時代は、女友達と作戦を練って、高柳先生にセクハラの罪を着せようとしたのです。
しかし思惑通りには行かず、高柳先生は眉ひとつ動かさずに、冷静に窮地を切り抜けたのでした。
休み時間。
高柳先生は、松田という他の教師から、ある相談を受けました。
その内容は「教師と生徒の恋愛についてどう思うか」というもの。
そして、松田先生が思いを寄せる相手は、ほかならぬ時代でした。
高柳先生は問題を冷静に整理した上で、改めて松田先生の気持ちを確認します。
「彼女を心から愛してしまったのですか？」
その問いに、松田先生は首を振りました。
このモヤモヤがきっと、ただの欲求だと思う、と漏らしました。
気持ちが整理できた松田先生は、その気持ちを伝えるべく、時代のもとへと向かいます。
一方の時代には、先生に対する恋愛感情は、これっぽっちもありませんでした。
２年前に高柳先生にしたのと同じように、今度は松田先生を、罠に嵌めようとしていたのです。
時代は松田先生と教室で２人きりになると、自分のスカートをめくり、誘惑します。
先生が「そんなことはやめろ」と近づいた瞬間、時代は「触らないで！」と大声を上げました。
そして、その一部始終をしっかりと、ボイスレコーダーで録音していたのです。
そこに現れたのは、高柳先生でした。
高柳先生は２人を落ち着かせてから、前に耳にした、時代の家族の話を語ります。
時代の姉は、テレビにも出ているモデルでした。
いつもその姉ばかりが褒められて、時代は寂しい思いをしながら育ってきたのです。
時代が大人ばかりを標的にしていたのは、まるで、大人の目を引きたくて、わざと悪さをする子供のようでした。
『たえず鏡に自分を映し、美しければそれにふさわしい者になるように』
『醜ければ、教養によってその醜い姿を隠すように』
古代ギリシアの哲学者ソクラテスは、かつて若者にそんな言葉を残しました。
高柳先生は、時代をまっすぐに見つめ、言います。
「貴方は――とてもとても美しいですよ」
松田先生はさっきああ言ったものの、本音では、時代のことを心から愛していました。
恋が破れ、傷心の松田先生は、高柳先生を飲みに誘います。
しかし高柳先生はその誘いを、「直帰がモットーなので」と、にべもなく断るのでした。
7話 教師の資質
都幾川幸人（ときがわゆきと）は、クラスに馴染めない男子生徒でした。
育ってきた環境が原因で、他人との心の距離感がつかめないという愛着障害を抱えているのです。
そんな幸人が心を開く数少ない相手が、高柳先生でした。
ある日の授業終わり。
高柳先生は、自分の授業に出てくれた幸人を、保健室へと送り届けにいきます。
保健室の先生も、障害を持つ幸人に気を使って接していました。
しかし、本当にそれでいいんだろうか。高柳先生は悩んでいます。
思い出すのは、過去の恩師との会話。
「女に『愛が欲しい』と助けを求められたとき、何ができるのか」
「一番手っ取り早いのは、その女を抱いてしまうことだ」
そうすればその女は、その瞬間だけは愛を感じ、満たされた気持ちになるでしょう。
けれどそれは、明日の食費が無い人に五百円をあげるようなもので、その場しのぎにしかなりません。
次の日の食費にはまた困るし、それに同じ状況の人は他にもごまんといるのです。
これを教師としての、生徒への接し方で考えてみたらどうでしょう。
教師である以上、生徒は全員、公平に扱わなくてはなりません。
手をかける生徒と、そうでない生徒がいてはいけないのです。
こんな制約の中で、教師にできる「善」とは、何なのか――。
ある日の学校。
「善」の答えを見つけられない高柳先生は、今日も幸人を保健室へと送りに向かいます。
２人で話しながら、保健室へ向かっている、その時。
高柳先生は、腕を掴もうとしてくる幸人から身体を背け、避けました。
瞬間、ショックを受けた幸人は、全速力でその場から逃げ出してしまいます。
どうして高柳先生は、身体の接触を避けたのか。
それもやはり、公平でなくてはならないという「善」の制約によるものでした。
例えば相手が女子生徒だったら、触れあうことはセクハラになってしまうかもしれません。
対象が変わったら通用しない救いは「善」でなく「偽善」なのです。
高柳先生は幸人を追いかけると、「貴方の心を救いたい」と伝えます。
ほんの少し臆病なだけで、本当はなんだって出来る素晴らしい人間だと、勇気づけます。
そんな高柳先生に、幸人は「ギュッてして」と、両腕を広げます。
瞬間、先生の胸の中に渦巻いた感情は、絶望。
絶望しながら、それでも、強引に幸人を抱きしめました。
幸人が帰り、１人になってから、先生は後悔の念に苛まれます。
あれほど考えたのに「善」は見つけられず、結局身体の触れあいという、公平でない方法に頼ってしまった。
高柳先生は道端にうずくまりながら、心の中で恩師に問いかけます。
――どうするのが、正しかったのですか。
8話 普通の人間
「俺って、何でこんなに普通なんだろう」
山野亮太（やまのりょうた）は、倫理の授業を受けながら、そんなことを考えていました。
バカだけど赤点は取らず、先生に嫌われることも、好かれることもない。
特技はなく、夢も、やりたい事もない、大勢いる生徒のうちの１人。
自分を、そんな普通の人間だと思っています
そして、それが悲しいわけじゃなく、悩んでいるわけでもないのでした。
ある日の放課後。
亮太は今日も、頭の中でぐるぐると、自分の普通さについて考えていました。
赤色に光る信号の前で、その色が変わるのを待っている亮太。
――と、その時。
亮太は信号の色が青に変わる前に、前へと踏み出していました。
そこをめがけて突進してくるトラック。
跳ね飛ばされ、道路に横たわる亮太。
周りの人達は、亮太にスマホのカメラを向けています。
きっと、あの反応が普通なんだろう。
なら俺も、きっとあっち側にいたら、ああやって写真を撮るんだろうな。
薄れゆく意識の中で、亮太はそんなことを考えていたのでした。
命に別状はなく、しばらく入院することになった亮太。
そこでも考えるのは、自分はなんて普通なんだろう、ということでした。
自分のような普通の人間は、事故を起こしても大した事件にはならないのです。
そこへ、高柳先生がお見舞いにやってきました。
担任の先生が来られなくなってしまったため代わりにやってきたのですが、２人は仲がいいわけではありません。
というか、ちゃんと話すことさえ初めてなのでした。
居心地の悪さを感じている亮太に、先生はおみやげを持ってきた、と言います。
そして取り出したのは、なぜか折り紙でした。
自分なりのユーモアでそれをチョイスしたのですが、盛大にスベって落ち込む先生。
折り紙を持ったままションボリと落ち込む先生を見て、亮太は思わず吹き出してしまいます。
ひとしきり笑ってから、亮太は口を開きました。
「俺、気付いたらトラックの前に出てたんだよな…」
自分が普通の人間だということに対して、悩んでいたわけではない。
病んでもいなかったし、ましてや死にたいと思ったことなんてない。
でも、と亮太は話を続けます。
「でもいっこだけ、『目立ちたい』と思ったんだ」と。
ただ普通に信号を待っているのがイヤで、目立ちたくて、亮太は赤信号の横断歩道に足を踏み入れたのでした。
そう話す亮太に、先生は優しく語りかけます。
「貴方は悩んでいたのですよ。必死で考えていたんです」
「自分が何者なのかを」
そしてその悩むという行為は、人間にしか出来ない特別なものだ、と先生は言います。
亮太が追い求めていた「特別な人間」に、どうすればなれるのか。
そう悩みながら、人間は生きていくのです。
『悩まぬ豚より、悩めるソクラテスであれ』
せっかく人間に生まれたのだから、悩みながら生きましょう。
「また倫理の時間に会いましょう」
そう言って、先生は病室を後にするのでした。
9話 本当の私
安村麻友（やすむらまゆ）は、ＳＮＳに自撮り写真を投稿することにハマっていました。
それもただの自撮りではなく、露出が多めな際どい写真。
そしてその投稿に「いいね」がつくことに、快感を覚えていました。
学校では友達が少なく、地味な麻友は、インターネットの世界に自分の居場所を求めていたのです。
ある日の倫理の授業。
麻友は授業中も、隠れるようにスマホをいじり、ＳＮＳをチェックしていました。
しかし高柳先生に、それが見つかってしまいます。
先生は放課後に取りに来るようにと、スマホを没収しました。
その日の放課後。
麻友は先生がいる、社会科準備室へと向かいます。
「もう２度としません」と、先生に頭を下げる麻友。
先生は「次からは気をつけるように」と言って、スマホを返したのでした。
その夜、やはり麻友はスマホをいじり、ＳＮＳをチェックします。
そこで目にしたのは、自分の投稿についた「顔出ししてないのはブスだからじゃね？」といった心無いコメント。
慌てた麻友は、なんとかしなくちゃと考えます。
化粧をし、着飾り、可愛く見えるように加工する。
そうして出来上がった、初めての顔写真を、ＳＮＳへ投稿しました。
翌日の倫理の授業。
昨日投稿した顔写真の反応が気になり、先生の話は上の空でした。
この前バレたばかりだけど、少しだけなら。
誘惑にかられ、麻友はまたしても、授業中にスマホを取り出します。
そして再び、それを高柳先生に見つかってしまうのでした。
放課後。麻友は先生のもとへと向かいます。
そこで先生は「ＳＮＳ自体は悪くないと思う」と、話し始めました。
人は、場面によってたくさんの人格（ペルソナ）を使い分けています。
親と話すとき、先生と話すとき、ネットの友達と話すとき。
そのそれぞれで、違う人格――違う仮面を被っています。
ＳＮＳでだけ使う人格があるのは、悪いことではありません。
けれど麻友の場合は、その人格ばかりを重視して、学生としての人格を無視しているのです。
人格という仮面をキレイに磨くこと自体は、とても大事なこと。
けれど仮面を被る役者が美しければ、その仮面はもっと輝きます。
学校はその、役者の部分をこそ磨く場所なのです。
人格という仮面ではなく、その内側にいる役者――つまり麻友。
その麻友に向けて、高柳先生はスマホを返すのでした。
麻友はスマホを受け取って、考えます。
そして、ハマっていたＳＮＳのアカウントを削除し。
勇気を出して、他の生徒に話しかけてみるのでした。
10話 優しくていい人
近藤陸（こんどうりく）は、ここのところずっと、学校を休んでいます。
父親と名乗る男はいつも「明日は行かせます」というだけで、結局もう、陸は２週間も欠席していました。
陸と仲がいい幸喜と亮太も、陸を心配していました。
そんな２人から、高柳先生はあることを耳打ちされます。
その内容は「陸のアニキがヤクザのようなことをやっているらしい」というもの。
陸は今、どうしているのでしょうか。
――２週間前。
陸は兄から、とあるおつかいを頼まれました。
それは、タバコを友達に渡して、代わりにあるものを受け取って欲しい、というもの。
指定された待ち合わせ場所は、なぜか駅からずっと離れた、人気のない住宅街でした。
到着すると、黒塗りの車から顔を出した強面の男が、陸に声をかけてきます。
陸はタバコを渡すと、代わりにお菓子が詰まった袋を手渡されたのです。
おつかいを遂行し、兄のもとへと戻る陸。
そこに待っていたのは、兄と、ガラの悪い友達たち。
一緒に呑もうと誘われ、陸はされるがままに、中へと足を踏み入れます。
気づいたときにはもう、次の朝。
陸は、割れるような頭の痛みとともに目覚めたのです。
それから度々、兄から「交換こ」を頼まれるようになりました。
兄に頼られるのが嬉しくて引き受けていましたが、本当はその交換こが何なのか、わかっていました。
渡しに行くタバコの箱に詰まっているのは、札束。
そして受け取るお菓子の箱の中には、クスリが詰まっていました。
つまり陸は、ヤクの売買に利用されていたのです。
それからしばらくして――、事件は起こります。
兄の友達に呼び出されて、人気のない路地裏に向かった陸。
到着すると「てめえがアイツの弟か」と、陸は暴行を受けます。
どうやら陸の兄が、クスリを持って逃げたようです。
男たちは兄に電話をかけさせますが、何度かけても出ることはありませんでした。
その時。
「…ねぇ君たち。そのコ、高校生でしょ？」
そう言って現れたのは、ジュダと呼ばれる男でした。
なんでここにジュダさんが！？と焦る男たちに、ジュダは「そのコ、俺にちょうだい」と言います。
急にこんな事態に巻き込まれた陸は、わけもわからず地べたに尻餅をついてしまいました。
少し前まで想像もしなかったのに、何でこんな事になったのか。
そして、ジュダと呼ばれるこの男は、何者なのか。
今の陸にできるのは、ただ恐怖することだけでした――。